アンデス浜松

南米の旅立ち前夜 - 隆一との出会い




翌日に南米のコーヒー農園を巡る旅を控えた美咲は、浜松のカフェでいつも通り仕事をしていた。店を早めに閉めようとしたその時、ひとりの60歳くらいの男性がふとカフェに入ってきた。彼の名は隆一。なんとその日、初めてのガラパゴス旅行から帰国したばかりだった。

「こんばんは。ちょっと遅くなってしまったけど、大丈夫ですか？」と隆一が声をかける。

「もちろんです。どうぞお座りください」と美咲は微笑んで席に案内した。

席についた隆一は、カフェのメニューをじっくり眺め、「エクアドルのコーヒーがあるんですね」と、驚きと興味を感じた様子で呟いた。

「エクアドルの豆は珍しいですからね」と美咲が説明する。「この豆はガラパゴス諸島の近くで栽培されたものなんですよ。」

「実は、今日そのガラパゴスから帰ってきたんです」と隆一は嬉しそうに笑った。「ガラパゴスは自然の宝庫で、まるで別世界のようでした。」

「ガラパゴスから帰ったばかりなんですね！それなら、ぜひエクアドルのコーヒーを試してみてください」と、美咲は心を込めてコーヒーを淹れることにした。彼女自身も、明日から南米への旅を始めるという思いが重なり、何か特別な一杯を提供したいと感じていた。

しばらくして、美咲が淹れたエクアドルのコーヒーを前に、隆一は香りを楽しみ、ゆっくりと一口飲んだ。

「…これは、素晴らしいなあ。現地で飲んだものと違って、ここで飲むエクアドルのコーヒーには、何か懐かしい温かさがある」と、隆一は目を閉じて味わいながら感動している様子を見せた。

美咲もほっと胸をなでおろし、「そう言っていただけて嬉しいです。このエクアドルのコーヒーは、環境保護に配慮した農園で育てられていて、ガラパゴスの自然が表現されていると言われています」と説明した。

「ガラパゴスの自然をこうして一杯に感じることができるなんて、本当に不思議な気持ちだよ」と、隆一は遠くを見つめながら呟いた。

ふとした会話の中で、美咲が「明日から私も南米を巡る旅に出るんです。コーヒーのルーツをもっと知りたくて」と語ると、隆一は驚いた様子で、「それは素晴らしいね！南米はきっと、多くのことを教えてくれる場所だよ。気をつけて、良い旅を」と励ました。

帰り際、隆一はもう一度「旅を終えたら、またこのコーヒーを味わいに来るよ」と笑顔で言い、美咲も「楽しみにお待ちしています」と返した。

その夜、美咲はコーヒーが人々をつなぎ、遠くの土地の記憶や情景を運んでくれる力を感じながら、明日からの新たな旅への期待を胸に抱いた。

アンデス浜松